『蹴球見聞録』/望月陽介
こんにちは。青学サッカー部の学連担当として4年間お世話になりました。望月陽介と申します。
自分は選手としての活動はしていないながらもせっかくの機会をいただいたので、4年間で多くの試合を運営・観戦した中で感じたことやサッカー観を皆さんに共有できればと思います。
自分の業務としてはインカレの大会運営という大きな山場が残っているので実質的には引退は2023年元日ともう少し先の話になります。とはいえ、自大学の先輩後輩である岡田さん、藤田さん、金田、結城をはじめに、他大学を含めた多くの学連メンバーのおかげでなんとかゴールが見えてきました。ありがとうございます。手前味噌にはなってしまいますが、学連メンバーは連日リーグ戦をはじめとする各種大会運営のために見えるところ、見えないところを問わずに様々な苦労を重ねています。自分は決して彼らに肩を並べられるような貢献は出来ていませんが、各大学の学生幹事を取りまとめる幹部3人などは特に苦労を重ねている姿を目にしてきました。サッカーが好きで、自らサッカーに関わることを選択した人間が多いとはいえ、そう言った人達の自己犠牲によって成り立っている部分も多分にある大学サッカーであることを心のほんの片隅に置いてプレー・ご観戦いただけると報われる気持ちです。
そして、本題に入る前に円滑なリーグ戦運営にご協力いただいた清水監督、中村総監督をはじめとするチームスタッフ陣のみなさん、マネージャー陣のみんな、もちろん選手のみんな、それから間接的な関わりにはなりましたがOB会の皆様をはじめとする多くの方のお力添えがあり、1年間のリーグ戦を無事終えることができました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
さて、「蹴球見聞録」というタイトルで文章を書くことにしましたが今年は学生生活最後の一年ということで、存分に自分の趣味も満喫しようと思い立ちました。自大学の試合だけでは飽き足らず、関東リーグの運営を行いつつスケジュールの許す限りスタジアムへ足を運びました。試合運営が終わったと同時に駅まで走り、新幹線に乗り埼玉の試合会場から地元の日本平まで向かったことも良い思い出です。年間を通じて楽しい試合ばかりではなく、期待した結果が出ないことの方が多かったのですが、それでも様々な体験や出会いがありました。この機会に印象に残った試合とエピソードを紹介したいと思います。
まずは今季の関東リーグ開幕戦です。
昨シーズンを東京都リーグという舞台で過ごした青学にとって2年ぶりの関東リーグ運営でした。試合の成り行き自体よりも競技場にお客さんが入り、チームが揃い試合が問題なく行えるか、ということで頭が一杯でした。関東リーグの運営を経験したことがある人間もチームには自分1人しかおらず手が回らない部分も多々ありましたが、他大学の学連メンバーの力も大いに借り、なんとか乗り切ることができました。試合自体も前シーズンを関東1部で戦った慶大相手に完封勝利と準備にかけた時間が報われた気分でした。やはり自分のチームの試合運営を行い、なおかつ試合にも勝利する瞬間を近くで目にすることは格別です。自分が学連を始めたきっかけはサークルなどの「仲間とワイワイやってただ楽しいサッカー・フットサル」よりも本気でぶつかり合って時にはダーティーな側面も垣間見えるサッカーの方が圧倒的に好きでそちらに関わりたいと思ったからです。この日の試合はチームが一丸となり一点をもぎ取り、必死に虎の子の一点を守り切る展開でした。文字通り身を投げ出して勝点3を取りに行く姿が見られ、まさに見ている人に何かが伝わるサッカーであったことが強く印象に残っています。
続いて9月3日、セルティックパークでのグラスゴーダービー「オールドファーム」です。
セルティックが首位、レンジャーズが2位という状況で迎えた伝統の一戦はまさに私がサッカーに求めていること全てが詰まっていました。歴史的な階級間闘争、宗教対立も相まって白熱するこの試合はピッチ上での選手同士の激しい交錯、サポーターが作り出す雰囲気、どれをとっても日本で体験できるサッカーとは異質で、プレーのレベルを問わなければエル・クラシコなどの欧州を代表するビッグマッチの中でも際立つレベルであると思います。スタジアムを埋める6万人が総立ちで試合を楽しみ、得点すると手に握った中身の入った飲み物カップの存在を忘れて大騒ぎ。良いプレーには全力で賛辞を送り、ミスにはとてつもなく大きなため息の後一瞬の間を置いて励ましの拍手。そして大量リードで迎えた終盤にはピッチに背をむけ6万人が肩を組んで飛び跳ねる「ポズナン」や聞くに耐えないFワード混じりの替え歌チャントやタブーとされているジェスチャーが足早に帰路につくビジターサポーターに浴びせられます。最近サッカーに興味を持つようになった方、コロナ禍以降のJリーグしか知らない方にとっては強めの刺激に圧倒されてしまうかも知れませんが、本来サッカーのあるべき姿はこうして感情を剥き出しにして楽しむものであると再認識させられました。前奏が始まったタイミングで隣のおじさんが「ほら、一緒に」と言って差し出してくれたマフラーの片側を持って歌ったキックオフ前のYou’ll never walk aloneの景色は今際の際の走馬灯で流れるシーンの一つになるだろうと確信できるレベルで鳥肌が立ちました。それから、最初に記述し忘れましたがオールドファームのチケットは当然シーズンシート保持者分で完売してしまうので私はチケットを持たない状態でスタジアムに向かいました。試合の価値からもチケットが転売されることは限りなくゼロに近いのですがゲート付近でチケットが欲しいと書いたボードを持っていた不思議な東洋人に話しかけてくれ、事情を聞き、定価で譲ってくださった方がいたため運良くスタジアム内で観戦することができました。そういった出会いを含めてあの体験が出来たことに本当に感謝がつきません。
他にも、直近で印象に残っていることとしてJ1最終節@札幌ドームでクラブ史上初の得点王のタイトルを確定させながらもチームがJ2降格となったことに対して誰よりも悔しがり涙を流し、最後までサポーターの前に残り頭を下げ続けたチアゴ・サンタナ選手の姿は生まれた時から応援しているクラブが降格となり呆然としていた自分にすら強烈に響くものがありました。あまりにも報われないその姿に一ファンでしかない自分も大きな悲しみを共有せざるを得ませんでした。しかし、こうした悲劇的なシーンも真剣勝負の世界だからこそ生まれ、サッカーが持つ魅力の一部であるのではないでしょうか。自らが以前部員ブログで書き記したサッカーにまつわる「喜怒哀楽」。その要素を限りなくたくさん経験した一年でした。
もちろん、青学サッカー部のリーグ戦最終盤6連勝に触れないわけにもいきません。
私がこの6連勝を通じて強く感じたことはチームとしてサッカーに向き合う姿勢です。結果だけ見れば、6試合続けて勝利することがいかにすごいことなのかは誰の目にも明らかです。しかし、私にとってより印象に残っていることは普段はクールな選手が熱くなってプレーしている姿や、身を挺して守備する姿勢(実際にこの間6試合連続無失点)、試合に出られずとも応援で必死に声を嗄らすメンバーの姿です。
ここまで長くなりましたが、私がサッカーに求めている要素を総括すると誇り・情熱・感情であると感じます。これはアトレティコ・マドリードのサポーターが21-22シーズンのCL準々決勝セカンドレグで作り出した「Orgullo, Pasión, Sentimiento」のコレオグラフィーの受け売りですが、互いのチームが死力を尽くしプライドを懸けて戦う姿、情熱的にピッチで躍動する姿とそれを後押しするサポーターの熱量、そして生まれるプラスもマイナスも含めた感情こそが贅肉を削ぎ落としたサッカーの本質的な部分なのだと思います。青学サッカー部も「心動」という言葉を掲げ活動していますが、やはりサッカーの究極的な目標はそれを通じて人々の心を動かすことにあるのではないかと解釈しています。
コロナ禍においては声を出して応援することは残念ながら制限されています。ただし、突発的な歓声が出てしまうことは許されているようです。もしみなさんが試合観戦に足を運ぶ機会があったら、どうぞ心が動いた瞬間には憚らず歓声をあげてください。声が出せないのであれば全力で拍手を送ってください。サッカー人気の低下が指摘される昨今ですが、そうした人が増えていけばサッカー文化の灯火は受け継がれていくものと思います。最近は大きなカメラを持ってスタジアムで観戦する人も増えました。でもその役は、プロのカメラマンが一番ピッチに近いところで担ってくれています。スマホでたくさん動画を撮ってVlogにするのも良いでしょう。でもできれば1プレー1プレーを肉眼に焼き付けて欲しいと思いますし、スマホやカメラを握った手で選手たちに大きな拍手を送っていただけるともっと良いフットボール体験になるのではないでしょうか。
願わくば、そうやって今後も青学サッカー部の試合や大学サッカーの試合、さらにはJリーグや日本代表戦を楽しんで、盛り上げていっていただけると嬉しい限りです。
長文、駄文ではありますが最後までお付き合いいただいた方々、本当にありがとうございます。そして、みなさんが今後もサッカーを通じて素敵な経験をされることを切に願っています。
このブログの最後は“サッカー王国清水“最盛期の生き証人であり、私をこの素晴らしいスポーツに引き合わせ、この世界に引きずり込んだ張本人である父への感謝の言葉で締めたいと思います。おかげさまで一生物の趣味、友達、思い出ができました。本当にありがとう。
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